株主総会で議案への議決権行使をするにあたって、どういう方針で賛否を決めているかを議案別に記述する。この基準通りにする必要はないが、自分なりの基準をもって議決権を行使する参考にして欲しい。
株主優待侍「株主総会議決権行使方針2023」
今回は「役員選任の件」。
この件に関しては以前一度記事にしている。
株主優待侍「株主総会議案:取締役選任の件」
この頃と基本的な考え方は全く変わっていないがアップデートした部分もあるので現時点のものを記録しておこう。と思ったが、前野記事を読み返してもほとんど修正すべき点がない。一応細かな部分で変更があるので新しい記事として書き残しておく。
□議案の内容
第○号議案 取締役●名選任の件取締役●名は、本総会終結の時をもって任期満了となります。つきましては、取締役●名の選任をお願いするものであります。取締役候補は、次の通りです。
※委員会型の場合には「取締役(監査等委員である取締役会を除く)」。また、「監査役○名選任の件」「監査委員である取締役○名選任の件」や、「補欠取締役選任の件」「補欠監査役選任の件」についても記述。
□対応方針
下記の基準により賛否を決める。
・年齢:総会日時点で満70歳以上(社外取締役は80歳)の役員は「否」。
ただし、創業者などで企業価値の源泉がその経営者のカリスマ性にある場合には「賛」。
・取締役会出席率(社外取締役):前年度在任期間中に開催された取締役会の出席率が8割未満の場合には「否」。
ただし、1回までの欠席は許容。監査役に関しては適用しない。
・社外役員の兼任:他の上場会社の役員兼職が3社以上の場合には「否」
※同一グループ企業の役員は何社あっても1社とカウントする。上場企業以外の兼職は3組織までは1社扱い。
・役員の出身企業・兼任企業:出身企業が反社会的行為を行うなど問題企業の場合には「否」
兼任企業がクリティカルな事業状況にありとても他社の経営に集中する状況にない場合には「否」
・世襲:原則世襲は容認。次世代が代表取締役に就任した場合には親世代は4年経過後からは「否」
・天下り:親会社からの派遣役員については、半数以下で3名を限度とする。
ただし、会社設立後20年以内の場合にはこの基準は適用しない。
・役員数:取締役候補が10人超の場合には、賛成するのは10人まで
不動産会社、コングロマリットなど対外的な事業活動の都合上で取締役の肩書きが必要な場合には適用しない
・役員個人の資質不足:学生から新卒で就任など十分な経験がないと推測可能な場合は「否」
・【仮】委員会設置会社において、指名委員会メンバーとして業務執行役員が入っている場合、当該役員は「否」とする。
□賛否の理由
・年齢:
上場企業の役員というのは激務である。人間は加齢により判断能力が衰え、集中力も衰えてくるのは宿命。しかも執着心が高まり理性的・合理的判断が次第にできなくなってくる。若い頃に極めて公平で優秀だった人物が老齢になり、独善的になり柔軟な判断ができなくなる悲しい事例は歴史を遡ることなくとも現代においても枚挙に暇がない。
もちろん、高齢にも関わらず精力的に活動し、若者に負けない新しいことを生み出している人物も多数存在する。が、我々個人投資家が役員候補者を直接面接しどういう人物か判断できるような状況になることはまずない。であれば、一律の年齢基準で判断する他ない。
何歳までなら大丈夫で、何歳以上は高齢だという基準は難しいが、一般的な定年年齢である65歳+5歳というのは、それほどおかしな基準ではないだろう。社外役員については、多少条件を緩和して+10歳にした。
ただし、創業者の能力やカリスマ性で企業を引っ張っている人というのは現実に存在している。その人がいなくなると、将来性が不安になることもある。例えば孫正義氏が引退する言い出したら、ソフトバンクグループの株価は急落するだろう。社員がその人だからリーダーシップに従って好業績を上げている場合もある。その場合には年齢で排除するのは適切とは言えないだろう。
では誰がカリスマ性で企業を牽引しているかということを知ることは難しい。ビジネス誌のインタビューや企業情報で個別に語られることもあり、それらの情報に触れてきた自分の知識の範囲で判断している。例えば、既に上場廃止になってしまったがダイオーズの大久保真一氏や、[7613]シークスの村井史郎氏、[2593]伊藤園の本庄八郎氏、[9984]ソフトバンクグループの孫正義氏、[6594]ニデックの永守重信氏など。創業者ではないが中興の祖と言える人物、例えば[8001]伊藤忠商事の岡藤正広氏など。
・取締役会出席率:
取締役会は株主総会を除き会社で最も重要な意思決定機関。その取締役会に出席しないというのは取締役失格。急病や急用で参加できない場合もあるので1回あるいはごく少ない割合の欠席はやむを得ない。が、当たり前のように欠席するようでは任せるわけにはいかない。
企業によっては、取締役会に出席せずとも日常的にコミュニケーションを取っているので十分に経営に寄与しているという場合もある。が、だからと言って重要な意思決定機関である取締役会を軽視していい理由にはならない。
また、大企業では取締役会が大勢で形骸化しており常務会など別の機関で意思決定しているので問題ないと主張していることもある。が、法律上の重要機関である取締役会を軽視する不届きな意見である。近年は執行役員制度を取り、取締役会は業務執行役員の監視機関にする動きもあり、取締役会の形骸化は減っているように思う。常務会など別の機関のほうが取締役会という企業は滅ぶべきである。
これは社外取締役についてのみ判断。監査役は個々独立して監査判断するので監査役会・取締役会の出席はあえてする必要はない。それでも0回というのは問題だと思うが、そこまで極端な例はなかった。
親会社の創業者、カリスマ社長で取締役に名前を載せているのに、出席回数が数回しかないような例もあり業務執行役員など社外取締役以外にも回数制限を考えた方がいいかもしれないが、たいてい年齢基準で否認対象になっているので、現時点では社外取締役のみとしている。
・重要な兼職件数:
社外取締役といえども、単に取締役会に出席して議案になっていることに対して意見を言ったり質問するだけで終わりというのは困る。そんなものは顧問や相談役でよい。取締役であれば株主に変わって日常的に経営を監視し、将来的な発展のために何をすべきなのか絶えず考え会社から与えられた情報だけでなく、能動的に活動してもらわないと困る。
そのためには多くの職務をかねていては無理だろう。せめて週に1日は、それに時間を当てて欲しい。その人の本業はそれ以上の時間が必要だろうから、本業3日、社外取締役は1日×3社、休日1日として合計4社と考えた。
上場企業以外の兼職をどうカウントするかだが、政府諮問機関の委員、NGO法人や学会・業界団体などの役員・理事職などは会議で意見を述べたり、名誉職に近いのかなと思うので3つで上場企業1社分と考えることにした。偏見かもしれないが、自分自身経験もないし、直接知る範囲内にその任についている人も知らないので想像するしかない。
自社の取締役が他の企業の社外取締役に就任する場合もあるが、3社以上社外取締役をしている場合には当社分について否認。
同一企業グループの関連会社で取締役・監査役を兼任している場合には何社あっても1社と計算する。ひとつの企業の事業部門が別法人になっているだけと考える。
・出身企業・経歴:
コンプライアンスに問題のある企業で役員をしている人物が他の企業の監視などできるわけがないので、問題企業の役員が社外取締役候補になっている場合には賛成しない。問題企業かどうかは個人的な判断なので具体例をあげるのは控える。
最近は文筆活動やSNS活動などで候補者個人の人柄などがわかる場合がある。遵法意識に問題があったり、差別発言があるなど問題人物がなぜか上場企業の役員候補になっていることがある。そのような場合にはもちろん否認。
女優やタレントなどを一律に経済や経営がわかるはずがないという決めつけもしない。他の人同様に問題がなければ賛成する。
・世襲:
世襲については従業員が不満に思わなければ問題としない。むしろ自分の子供などに事業を継承したいというのがモチベーションになっているのであれば、よいことかもしれない。
が、創業者が子息などに禅定する場合には親子が経営者として共存する必要はないと思う。子供に経営能力があり経営を任すにたるだけの経験もついたと判断したのであれば、素直に経営を任せて自分は引退するべきだ。その能力がないと思っているのに、代表取締役を譲るのは理屈に合わない。創業家で株式を保有しており役員の選任に影響力を行使することも可能だろう。親子で取締役会を牛耳らなくとも、十分に影響力は行使できるだろう。移行期間として4年もあれば十分だ。
・天下り:
官公庁からの天下りではなく、親会社から子会社への役員派遣について。分社により作った場合や創設して間もない場合には役職員に親会社出身者が多いのは当然。だが、会社設立から相当時間がたっているのに役員・管理職が親会社出身者が就任して生え抜きなど社内昇格組が少ないのは、社員の意欲を削ぎ適切ではない。また上場企業として親会社に目が向き少数株主のことを考慮しない体制は好ましくない。
にしても親会社の意向が適切に伝わりグループ経営が円滑にすすむために役員派遣自体は否定しない。なので親会社からの派遣役員数は取締役の半数までとする。社外取締役を含んだ数。また人数は最大3名。なお社外取締役含めた半数以下というのは会社設立20年以内の場合でも適用。
人数を超過した場合には新任の取締役を否認。
・人数:
取締役の人数が増えると各個人の責任範囲が限られてしまいがちだ。企業形態が大きくなると部門長を取締役にして数が増えがちだ。近年は執行役員制度の導入で業務執行と経営判断を分離する仕組みができあがっている。大企業などでは執行役員制度を採用すべきだ。
ただし旧来からの仕事のやり方が残り「取締役」という肩書きが営業上必要とされるケースが日本にはまだまだ残っている。自分が知る範囲では不動産業界。他にも多くの異業種を社内にもつコングロマリット。持ち株会社が解禁されてからは性格の違う異業種については別会社にするようになってきており、コングロマリットというのは減ってきている。
原則として同一事業部門からは1名とし、2人目以降を否認。それでも多い場合には、社外取締役を除く候補者リストの後ろから順に否認。
・個人の資質:
大学卒業後社会経験がないのに、留学経験があるからとか学業成績が優秀とかいう理由を付して取締役会候補としている例があった。そんな人間、何万人もいるので理由になるわけがない。
創業者の子息であっても、普通は従業員として職務経験を形だけでも積ませてから取締役に昇格させるのにむちゃくちゃだ。
・委員会設置会社にするのは取締役会のガバナンス強化目的。それなのに人事権を掌握する指名委員会を業務執行役員で支配しようとするのは目的から外れている。指名委員会は社外取締役だけで構成すべきだと考える。が、この考え方は新たに考えた物でまだ多くの企業の実態を把握していない。もしかしたら的外れな考え方かもしれない。業務執行役員が1名入っているのは問題ないかもしれないし、過半数を社外取締役で占めていればいいのかも知れない。今後はこの視点をもって色々な企業の実態を確認するという意味で【仮】としている。