年末になると心配になってくるのは今年の投資売買で出た利益にかかる所得税。株を売って沢山利益が出た場合、その利益に応じて沢山税金を支払いことになる。できれば支払う税金は節約したいというのは人情。特定口座で源泉徴収する設定の場合には既に支払い済みだから、来年支払う税金を心配することがないのだが、この支払い済みの税金を取り返す方法がある。
それが損出しと呼ばれる方法。
※以下では説明を簡単にするため所属税・住民税の合計を20%とする。実際には復興特別所得税と合わせて20.315%
※すべて特定口座での取引とする。
※また売買手数料は考慮しない。
■損出し
□基本
例えば、現時点で1年間の実現利益が50万円だとする。すると本年の所属税・住民税合計が10万円になり、手元には40万円しか残らない。ところが、保有している株式の中に含み損の銘柄があり、それがマイナス50万円であれば年内に売却して本年中の実現損益をゼロにすることができる。つまり手元に残る利益は0円になるが、支払うべき税金も0円でよくなる。
これだけ見ると利益が減ったように見える。もう少し例を詳しく展開すると、例えば年初に現金400万円を口座に入金して投資を開始したとする。2つの銘柄A・Bに200万円づつ投資する。銘柄Aは好調で250万円まで上昇したので売却して50万円の利益を確定するが、銘柄Bは値下がりし評価額150万円で保有を継続し年末を迎える。口座内には250万円の現金と銘柄B(評価額150万円)で口座残高400万円である。このまま年を越すと10万円の税金を支払うことになり、実質的には390万円の価値ということになる。源泉徴収あり口座であればもっと分かりやすく、銘柄Aの権利確定時に10万円源泉徴収されるので年末には現金240万円と銘柄B(評価額150万円)で口座残高390万円である。
この例で年末を迎える前に銘柄Bを売却して損出しを行うと、口座残高は現金400万円で同じであるが実現損益が0円になるので翌年収める税金が0円なので口座内の400万円はすべて自分のものになる。源泉徴収あり口座の場合には、あらかじめ徴収されていた10万円が還付され口座残高に反映される。
もちろんこんなに都合よくぴったりの金額になることは少ない。40万円でも30万円でも損失を出すことによって本年分として納めるべき税金を節約することが可能である。
□繰り越し損失
上場株式の売却損が出た場合、確定申告をすることで3年間繰り越すことができる。繰り越した売却損は各年の売却益と相殺することで利益を圧縮して支払うべき税金を減らすことができる。
上記の例で言えば、前年までの繰り越し損失が20万円あったとすれば、損出しするのは最大30万円あればよい。上記例では丁度50万円分の含み損のある銘柄があったからよかったが、実際には複数の銘柄を組み合わせて必要な額の損失を出す形になるだろう。
繰り越し損失が持ち越せるのは3年間だけ。2020年〜2022年に発生した損失を確定申告していれば、2023年の利益から差し引くことができる。ただし、本年分の損失がある場合には利益と相殺されるのは本年分の損失が優先される。
□買い戻し
ところで我々優待族は持ち株を簡単に売却するわけにはいかない。上記銘柄Bも優待目的で保有しているのかもしれない。だから含み損があっても保有を継続しているのかもしれない。株主優待銘柄でなくても、将来株価が上昇すると期待しているから保有を継続していることもある。これを機会に縁を切るというのもありだろう。が、通常は売ってしまうのは惜しい。その場合には、売却後買い戻して継続保有することになる。買い戻した銘柄の購入単価は新たに買い戻したときのものに書き変わる。
□平均単価
買い戻しで注意すべきことは売却した当日中には買い戻さないこと。売却した日と買い戻した日が同一の場合には、まず購入してその後売却したものとして買い単価の計算が行われる。単価1,000円で100株購入して、株価800円の時に売却し、当日中に同じく株価800円で100株買い戻した場合には、2万円の損失で買い単価800円になるのではなく、買い単価900円×200株のうちの100株を売却し1万円の損失と単価900円×100株で評価損1万円の保有と計算される。翌日以降に買い戻す必要がある。この仕組みを利用して損出しする金額を保有株の含み益の一部だけにするテクニックも考えられるが複雑なのが玉に瑕。
□同時売買
この場合に気になるのは売却した後、買い戻すまでの間に株価が上昇してしまうことである。本来継続保有していれば得られたはずの利益が得られなくなってしまう。例えば単価1,000円で100株購入して株価800円で損出しのために売却したが、翌日買い戻す時に900円になった場合には実現損失2万円で4千円分の税金支払いを免れることができる。一方、株価の上昇で得られたはずの1万円(税金分を除いたとしても8千円)を損しているので本末転倒と言う他ない。
これの対策としては売却すると同時に反対売買を行うこと。例えば信用取引を利用して、銘柄Aを売却するのと同じタイミング同じ株価で信用買いを行う。そして翌日、現引きして現物株として保有する。同タイミング同株価で取引するには、一日の取引が始まる前に成り行き注文を出しておき取引開始の始め値で売買する。買いと売りを同じ株価の指し値で出しても片一方しか成立しないことがあるので、必ず成り行きで注文しなければならない。そして市場が動いているときに成り行き注文を出すと、直ちに執行されてしまうので二つの注文を同時に出すことはできない。なので、市場が動いていない時間帯に注文を出す必要がある。自分は信用取引をしていないのでこの方法は実行したことがない。
成り行き注文の欠点は思った株価での損出しができないので、場合によっては損失額が想定以上になったり、損出しが足りなかったりすることがあること。多少の誤差として許容するしかない。
信用取引ではなく二つの証券会社を使う方法もある。α証券で保有している銘柄の成り行き売り注文を出す。そしてβ証券では同じ銘柄の成り行き買い注文を出す。もちろん市場が動いていない時に。すると取引開始後の始め値で両方の注文が成立して損出しをしつつ株式を継続保有することができる。この方法を使うと保有している証券会社が変わるので株主番号が変わってしまう欠点がある。株主番号が変わると長期継続保有の条件が成立しなくなる。継続保有期間の条件があったり、優遇がある場合には株主番号が変わらないようにしなければならない。
株主番号を変えないためには、もう一度上記と反対の売買をする。前出の例で言えば、β証券で保有することになった株を翌日以降に成り行き売りし、同時に売買が成立するようにα証券で成り行き買い注文を出す。これで元の状態に戻る。一度売却してしまったら株主番号が変わってしまうのではないかという心配があると思う。基本的には単に売買しただけでは株主番号は変わらないが注意は必要だ。
□株主番号を変わらないようにしたい
上場会社では配当金を支払う権利のある人、株主総会で議決権を行使する権利を持つ人、株主優待を贈る対象者を知るために株主名簿および実質株主名簿を使う。ここでは実質株主名簿のみを考える。この名簿は保管振替機構が管理しているが、売買するたびにこの名簿の名前を書き換えていると煩雑なため、必要なタイミングごとに企業からの総株主通知請求によって名簿の更新を行う。この時前回と同じ証券会社を通じて同一名義で保有していれば保有株数の修正だけで株主番号は変わらない。
株主番号が変わらないようにするには
・保有株式の一部のみを売却する
・権利日をまたがない
のいずれかに気を付ける。
例えば複数単元保有していて、1単元を残してそれ以外を売却すれば株主番号が変わる心配はない。101株など優待保持用以外に株主番号維持用に単元未満株を保有するのもよい。以前は権利日以外は株主番号維持用に単元未満株を保有していて、権利日のみ優待を得るのに必要な株数だけ購入するような投資手法もあったが、最近では継続して一定株式数保有することが長期継続保有の要件とする企業も増えたのでこのやり方は減った。
権利日というのは期末や中間期末のことであるが、企業によってはそれ以外の日にも総株主通知請求を出すなどで名簿を更新することがあるので、この日には前回権利取得したときと同じ証券会社で株式を保有しているように注意する。3月末日決算の企業の場合には9月末日はもちろん、6月末日、12月末日も避けた方がいいだろう。15日決算、20日決算など末日以外の決算期の銘柄については特に気をつけよう。楽天証券で保有銘柄で期末など事前に決まっている日以外に総株主通知請求があるとほお知らせで教えてもらえるので助かる。
自分は何回か上記複数証券会社を使う方法で長期継続保有の条件を満たした経験がある。信用取引については経験がない。
□受け渡し日
損出しは12月末日までに実行する必要があるが、これは受渡日ベースということ。2023年の場合には最終営業日は12/29だがこの日が受渡日になる12/27までに約定する。
■益出し
損出しの逆。損失が多額に出ていて確定申告による損失の繰越をしない場合には利益の出ている銘柄と損失を相殺すると将来利益確定したときに支払う税金を減らすことができる。毎年益出し、損出しをするよりも確定申告して損失繰越したほうがいい。考え方は損出しと同じこと。