株主優待ブログ、投資ブログの他にFIRE関連のブログもよく見ているのだが、若くして労働から解放された人たちの中でも国民年金の保険料免除を受けている人が結構いて驚く。自分が社会人になって以後、厚生年金に加入していたのは最初の十年程度だけでその後は国民年金、課税所得がゼロの年も結構あったが国民年金の保険料免除を考えたことは一度もなかった。正直、そんなことをするのはもったいないと思う。
■国民年金の有利さ
民間の保険会社で個人年金保険に加入した場合を考えれば、これほど有利な保険は他にない。民間では到底実現不可能な有利さである。現在は1ヶ月16,520円を20歳から60歳までの40年間払うと、65歳から年額816,000円を生涯受け取れる。月額にすると68,000円。この間の払込済み保険料は、7,929,600円になる。
※昭和31年4月2日以降生まれの場合。
これと同じような条件で民間保険会社で加入した場合のシミュレーションを見てみよう。月額15,000円を20歳から65歳まで45年間払い込むと65歳から75歳までの10年間確定で年額87.25万円(月額72,708円)とかなり近い。809.8万円を払込み、受取額合計が872.5万円。だが忘れてはいけないのが、この民間保険では10年確定なのだが国民年金の場合には生きている限り永遠に受け取れるということ。

終身保険になることでのお得さを知るために別の会社のシミュレーションを見てみる。第一生命保険では保険料ベースではなく積立金額を元にしている。これを800万円として10年確定で受け取ると年額801,984円(月額66,832円)とかなり近い数字になる※1。では、同じ原資で終身にするとどうなるのか?65歳受け取り開始、保証期間5年、男性の平均寿命81.05歳から82歳まで受け取るとすると受け取れる年額は348,480円(月額29,040円)となり、なんと10年確定の約44%になる。受取総額は5,924,160円で払込保険料に満たない額※2。88歳まで受け取ってようやく8,015,040円になり積立額を超えることができる※3。国民年金には保証期間がないのだが、同じ額を受け取りたければ逆に倍以上の保険料を支払う必要がある。積立額1,875万円にすると年額816,756円(月額68,063円)になるので、これが近いだろう※4。
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これだけ見ても国民年金のお得さが理解できるはずだ。民間保険では全国民を半強制的に加入させることができることと、保険料だけでなく税金も投入されていることが、お得さを実現可能な理由だろう。
若くしてFIRE可能な人たちで、さらにブログでそれを発信するような人は、マネーリテラシーが高い方々と思われる。そんな人々が、このお得な国民年金の保険料免除を受けようというのは如何なる理由だろうか。
■なぜ免除を選ぶのか
□信頼性
理由としてよく聞くのは「制度が信用できない」というもの。保険料はいずれ増額される。保険金はいずれ減額される。受け取り可能な年齢がどんどん先延ばしになる。など。「制度が破綻する」という大雑把なものもある。実際過去の経緯からも、それらの指摘はいずれも正しいだろう。保険料は今後も漸増することは当然考えられる。平成元年に保険料が8,000円であったので約35年で倍になっている。一方老齢基礎年金額は平成元年には年額666,000円であったので、22.5%程度しか上昇していない。つまり年々民間保険に比較した場合の有利さが失われていく傾向にあるというのは間違いない。
が、少なくとも40代・50代の人は制度の大幅な変更の心配をする必要がない。50代の人はすでに年金額の予定額を提示しており、これを変更するのは相当想定外の事態が発生しないことにはありえない。制度変更までに数年の議論が必要で、さらにそこから経過措置があり段階的に変更するという手順を踏むので、大幅な制度変更があったとしてもこれらの年代の人は現行制度が適用されるだろう。
20代・30代の人は大幅な制度変更により影響を受ける可能性がある。が、前の消えた年金問題の時に制度変更の議論があったが、実際にはそれほどドラスティックな変更ではなかった。年金制度は複雑で巨大なので制度変更は相当な労力が必要。現在の与党はもちろん、野党にもそれだけの変更が出来る能力があるとは思えない。あったとしても小手先の数字の調整だろう。となると、多少の違いがあっても民間保険よりも有利ということは揺るがないのではと考える。
□不確実性
そして制度変更や金額の変化などで将来設計における基盤と考えるには不確実すぎて役に立たないという意見がある。まあ、これはそうかな。とは言え、どんなことでも未来のことは確実に予測することは難しい。投資環境が変化する。為替が変化する。不動産市況が変化したり、不動産に関わる税制など制度変更がある。など、どのような投資であろうとある程度の不確実性は含みつつ現行制度の連続性を信じて、予定に組み入れるしかない。だから公的年金制度だけが特別に不安定だという指摘は適切とは思えない。ある程度の幅があっても現行制度が続くと考えて計画するしかない。
□投資資金
人によっては国民年金に支払う保険料を自分で運用したほうがリターンを大きくすることができる。というのもある。実際40年間で800万円を積み立てて、1,800万円の年金原資ができれば同等だということが上記の計算で分かった。40年で2.25倍というのは全く無謀な賭けでもない。積立シミュレーションで1.6万円を年利4%の利回りで40年間積み立てると768万円の拠出で1,891万円になる。ある調査では過去30年間のS&P500指数(円)のリターンは9.4%、日本株式のリターンは2.2%だという。債権などを組み合わせて安全性を高めても年平均4%というのは無謀な数字ではない。
で、あれば国に運用を任せるのではなく自分で運用したほうが上振れもあるのでお得だろう。しかも全額免除でも2分の1の年金額がもらえるのであれば、その方がお得だとなるのは納得できる。40年全額免除となった場合でも年額408,000円。なので800万円を原資にして40年間で900万円にすれば同等だと言えるのだから相当安全な投資でも実現可能だ。
が、分散投資という面で言えば自己裁量での投資とは別に国に運用してもらう分があってもいいのではないかと思う。仮に自己裁量での投資に失敗しても国のほうは(制度変更がなければ)利回り保証されているようなものなのだから。
□未来より現在
将来受け取れる金額を増やすよりも現在使える額を増やした方がいいという価値観の違いということもあるだろう。
これについては反論のしようがない。自分としては将来に不安があると現在を楽しめない性格なので、将来を安泰にした上で余裕がある分を使って現在を楽しむようにする。と考えているので、その安心の得るための保険として国民年金を考えている。が、将来の沢山使うよりも早期リタイアに漕ぎ着けたい。若いうちの時間を自由に使いたい。という考え方に対しては、間違っているとか自分の考えの方が正しいとか主張することは御門違い。重視する価値観が違うのだから違う選択をするのもありうる話。
なるほど、よくよく考えて行くと「国民年金保険料免除はもったいない」というのは、的外れな意見の場合もあるようだ。漠然と考えるより、ちゃんと文章にしながら考えるというのは有益なことだな。